キャッチング・キラーズ: 連続殺人犯を追いつめた刑事たちとは
現在ネットフリックスで配信中のドキュメンタリー『キャッチング・キラーズ: 連続殺人犯を追いつめた刑事たち』。(2022.09.10現在)
これは、有名な連続殺人事件を担当した刑事たちへのインタビューをメインに、逮捕までの過程や取り調べ時の映像や肉声などを交えながらその内幕を描くドキュメンタリー。
映画化された有名な事件から、今回初めて知ったものまで、どれも興味深いものでした。
2シーズンあり、それぞれ3つの事件を扱っています。
※字幕版のみ、ネタバレしています。
The investigators behind infamous serial killer cases reveal…
シーズン1
(↑Netflixより)
DNA鑑定で19年後に逮捕!グリーンリバー・キラー
このドキュメンタリーで初めて知った事件です。
1980年代、アメリカ・シアトルで起こった女性連続殺人事件で、グリーン川周辺で遺体が発見されたためこの名前が。
続々と発見される娼婦の遺体、そんな事件を担当する刑事の一人が自ら性犯罪の被害者だった女性のフェイ刑事。
自分の受けた心と身体の傷を仕事として昇華させたものすごく強い女性です。
フェイ刑事は娼婦たちに気をつけるように促すも、止まらない犯罪、そして進まない捜査。
情報からある男が捜査線上に浮上するも決定的な証拠がなく、しかもその男はマスコミを使って警察を挑発する始末。(彼はシロ)
そして時間を置いてまた遺体が発見されだし、捜査チームに新たな刑事が加わりもう一度事件を洗い直すことに。
結果1年9ヶ月の間に20人もの犠牲者がでてしまう。
そんな行き詰まる捜査チームにある若い女性から情報がもたらされ、ゲイリー・リッジウェイという男が容疑者として浮上。
しかしまたもや決定的な証拠がなく逮捕まで至らず。
捜査チームは大幅に縮小され、未解決のまま時間だけ経過することに。
ただこの時間は無駄ではなく、この間にDNA鑑定の精度が大幅に上がり、事件発生から19年後にリッジウェイは逮捕。
印象的だったのはインタビューに答える3人の刑事が、犯人逮捕時の話のとき全員泣いていたこと。
事件が解決してからかなりの時間が経過しているにもかかわらず。
そしてそのうちの刑事の一人は退職後も、この事件のまだ身元がわからない遺体を調べ続けている…。
それほどまでこの事件は彼らの心にずっと重くのしかかっていることに驚き、身元不明の被害者をなんとか家族の元に返してあげたいという情熱に胸が熱くなりました。
(↑ゲイリー・リッジウェイ。investigationdiscoveryより)
映画化された女性連続殺人犯アイリーン・ウォーノス
シャーリーズ・セロン主演の映画『モンスター』、これでアイリーン・ウォーノスを知った人も多いかもしれません。
私もその一人。
次々と男性を殺したこのアイリーン、どんな人物かというと、かなり過酷な人生を歩んできた女性。
同情する余地はあるにしてもそれで殺人が許されるわけではなく。
この事件で見えてくるのはどの殺人も怒りに任せた行き当たりばったりのずさんな犯行。
遺体を見えないように隠すわけでもなく、綿密なアリバイ工作をするでもなく。
でもなかなかアイリーンにたどり着かない警察。
そこで似たような未解決の過去の事件を洗い直すと、そこで使われた車にヒントが。
どの車の運転席も一番前まで出されていたこと。
そして女性二人の目撃情報があったため、少しずつアイリーンに捜査の手が伸びることに。
囮捜査でアイリーンを別の容疑で逮捕。
殺人事件で彼女を逮捕するため警察が使ったのは恋人ティリアを利用すること。
映画ではクリスティーナ・リッチが演じていたあの女性の恋人。
実際は小柄なところが似てるだけの垢抜けないの女性で、やっぱり映画はきれいに脚色されてるんだと気づく…。
(それに引き換え、アイリーンになりきったシャーリーズ・セロンの変身ぶりは本人にかなり寄せていた)
彼女に説得され殺人を自供するアイリーン。
えっ、そんなに簡単に自白するの?とちょっと拍子抜け。
何人も男性を殺したシリアルキラーが恋人の説得で落ちるなんて…。
でも私が一番驚いたのはアイリーンでも恋人のティリアでもなく、囮捜査でアイリーンに近づいたマイク・ジョイナーという潜入捜査官。
インタビュー時の彼はでっぷりと太ったアメリカの無骨な男。
潜入時はもっと若かったにしても、どっから見ても警察官には見えない場末感!(褒めてます)
彼がアイリーンに近づき逮捕したことで事件の捜査は一気に進展。
そして彼女が逮捕されたバー「ラスト・リゾート」は今でもアイリーンのイラストやオリジナルTシャツがあったりと、いかにこの事件が人々の印象に残ったかがよくわかります。
(↑シャーリーズ・セロンが演じるアイリーン(右)。scriptwritingukより)
冤罪を生んだハッピーフェイスキラー
1990年、ターニャという若い女性の遺体が発見され、保安官事務所へのタレコミから容疑者が浮上。
容疑者ではないかと言われたその男ジョンは保護観察中で、年上の恋人ラバーンと同棲中。
その恋人が通報してきていた。
怪しいジョン、そして情報提供してきたラバーンもどこか怪しい。
供述もコロコロ変わる、どこか話の辻褄が合わない。
それでも限りなくクロに近い二人は逮捕される。
インタビューで担当刑事は「なぜか嫌な予感がした」と言っていて、観ている私も「なんか変…」というモヤモヤ感が。
その予感は的中で、3年後自分がターニャを殺したという手紙が地元の新聞社と郡庁舎に届く。
そこにはターニャ以外にも殺していると告白、そしてその手紙にはハッピーフェイス(スマイルマーク)が。
記者は手紙にあったターニャ以外の事件の裏付けを取り、警察も手紙を無視できず再び動きだす。
恋人を殺した罪で逮捕されたキース・ジェスパーソンという男が突然自分がハッピーフェイスキラーだと自白。
手紙から採取された唾液とキースのDNAが一致。
結局彼がターニャを殺した真犯人と確定。(ここに至るまでの地道な捜査もすごい)
ターニャ殺しで刑務所に収監されていたジョンとラバーンは無罪で釈放。
何が納得いかないって自白したジョンとラバーン。
ラバーンはジョンと別れたくて彼を犯人に仕立てたかったようだが、彼女自身も逮捕されてしまう。
なぜそんなことをしたのか、逮捕されてもなぜ無罪を訴えることを諦めてしまったのか。
この二人の嘘の供述がなければ冤罪が生まれることもなかったのに。
冤罪とわかってもすごく後味の悪い結末でした。
シーズン2
(↑Netflixより)
30年越しでようやく逮捕されたBTK
1974年に最初の犯行、その後1991年まで10人を殺したBTK(Bind:緊縛・Torture:拷問・Kill:殺害の頭文字)。
長い潜伏期間を経て2004年手紙を警察に送りつけ、そこから逮捕に至ります。
この『キャッチング・キラーズ』の前に観ていた海外ドラマ『マインド・ハンター』シーズン2でBTKことデニス・レイダーが登場。
『マインド・ハンター』の中で唯一捕まっていない犯人で、現在進行中のシリアルキラーとして描かれている彼。
なので、『キャッチング・キラーズ』を観てより事件の詳しい内容を知ることができ、『マインド・ハンター』のBTKがいかに事実に忠実に描かれているかビックリ。
しかもBTKを演じている俳優がすごく似てて思わず「マインド・ハンターとおんなじ!」と思ったくらい。
その後もBTKから手紙が届いたり、殺した子どもに見立てた人形を道路に置いたりと挑発がだんだんエスカレート。
それが彼の命取りとなることも知らずに。
彼が最初に犯行を犯した70年代から時代は大きく変化、監視カメラの映像やフロッピーディクスからわかるPCやソフト所有者、そして誰がそのソフトを使用したか、そしてここでもでてくるDNA鑑定という科学技術の発達のおかげでBTKは逮捕。
2004年に何もアクションを起こさなければたぶん迷宮入りしていたであろうこの事件。
自供の際も誇らしげに何時間も話し続けたよう。
シリアルキラーの自己顕示欲が解決に至った印象深い事件です。
(↑BTKことデニス・レイダー。all_thats_interestingより)
Is the Mysterious Serial Killer on #Mindhunter Really the BTK Killer? https://t.co/SnpzfGivCW
— Esquire (@esquire) November 10, 2017
(↑マインドハンターのBTK。Esquiresより)
ゲーム感覚で犯行を重ねるフェニックスの連続銃撃犯
2006年アリゾナ州フェニックスで起こった連続銃撃事件。
夜、車中から歩行者をショットガンで無差別に狙うこの犯人。
なかなか犯人に近づけない中、襲われた女性が犯行に使われたライトブルーの車を覚えていたため、そこから捜査は一気に進みだす。
そしてある男が女を撃ち殺したという告白が警察に提供されると、その男と目撃された車がつながり、あとは証拠を押さえるだけに。
緊迫の尾行の結果、警察は無事犯人逮捕に漕ぎつける、という内容。
犯人はサミュエル・ディーテマンとデイル・S・ハウスナーという男二人組。
動機はゲーム感覚。
特定の人に対する恨みでも、恋愛感情やお金のトラブルでもなく、面白半分に見ず知らずの人を撃ち殺していたというどうしようもないアホみたいな理由。
殺されたのは8人、でも本当はもっと多いかも。
シーズン1と2で紹介されている連続殺人の中でも、私はこの事件が一番心を動かされなかった。
なぜなら犯人の感情がまったく見えないから、そして人の犯行というよりも銃の犯行だから。
他の事件は犯人の心の動きが見えるのに、これはちっとも見えてこない。
でも、刑事たちの必死の捜査は本当に本当に頭が下がる…。
仕切り直しでようやく逮捕されたトロントの殺人鬼
2010年代にカナダ・トロントで起こったこの事件。
ある日トロントの刑事の元にスイスの刑事からビレッジ地区で起こった男性の失踪事件の情報提供の電話が。
その内容は2年前に行方不明になった男性は誘拐され食べられたと。
かなりショッキングな内容と「えっ、カナダでこんな事件が起こってたの?」と知らなかったことにもビックリ。
その情報を元に、まず事実かどうかの確認を始める警察。
情報提供にあった怪しげなカニバリズムのサイトに登録し、容疑者とコンタクトを取る捜査チーム。
人を殺し、捌いたとされる山小屋を発見、そして囮捜査で尻尾が掴めると思ったが失敗。
別件で逮捕したものの決定的な証拠がでないため捜査は暗礁に乗り上げ、未解決のままさらにそこから年月が経過。
結局この時の容疑者は限りなくクロに近いシロということで犯人ではなかった。
そしてまた、男性の失踪事件が起こり捜査チームが動きだす。
今度の失踪者は自宅近くの監視カメラに誰かの車に乗る姿が写っていて、これが突破口となり少しずつ真相に近づいていく捜査チーム。
車を特定し持ち主を割り出し監視、そしてある日突然その車が変わっていた。
犯人が犯行に使った車を廃車にしたのでは?と考えた捜査チームはどこにあるかわからない廃車探しに奔走。
他にも決定的な証拠を掴むため、容疑者の留守時にPCのデータをコピーしたりと考えられる手を全て使う刑事たち。
この辺りの刑事たちのインタビューはハラハラドキドキもの。
消された莫大な量の画像データの復元など、地道な捜査に心も身体も疲れ果てる刑事たち。
そんな中、復元された画像にある失踪者の遺体らしきものや他の遺体の画像もでてきたことによりいよいよ逮捕へ。
そんなタイミングで容疑者はまた男性を自宅へ連れ込んでいると。
監視中に新たな殺人が起こるのだけは避けたいと大急ぎで容疑者宅へ乗り込む警察。
そして真犯人で男性8人を殺していたブルース・マッカーサーを逮捕。
実はこの男性失踪事件で自ら情報提供していたことが発覚。
この時、彼の経歴を調べていればこんなに逮捕まで時間がかからなかったのでは、そして被害者が増えなかったのではと。
結果を知っているからこういうことが言えるけれど、いざ捜査の渦中にいれば見過ごしてしまうことかもしれない。
何を拾って何を捨てるかも捜査には非常に重要なことだと痛感。
この事件はパート1と2で構成されていて、パート1で浮かんだ容疑者は実はシロ。
そこから年月が経過したパート2でようやく真犯人が逮捕。
パート1で捜査の中心にいた女性刑事デビー・ハリスはシングルマザーで、仕事に忙殺され子どもと過ごす時間がまったく取れないことを理由に警察を辞めているんですね。
で、パート2で新たな失踪者がでた時点で復職を願うも叶わず。
彼女の犯人を捕まえたいという意欲はパート1でひしひしと伝わっていたけど、限界を感じた彼女は家庭を優先させた。
でも警察はその意欲を買って復職させ、もう一度捜査に当たってほしかったなぁ。
(↑CBC News: The Nationalより)
観終わって
かなり前の「BTK」や「アイリーン・ウォーノス」のような有名な事件から、数年前起こった「トロントの殺人鬼」などのあまり知られていない事件まで非常に面白い構成。
そして刑事たちの話を中心に据えたのは今まであまり観たことがなくて新鮮でした。
犯人の実際の取り調べの映像、そして肉声など決してドラマでは味わえない本物だけが持つ緊張感もよかった。
中には冤罪が発生したもの(ハッピーフェイスキラー)や真犯人ではない人物を逮捕したり(トロントの殺人鬼)、警察と接触していたにも関わらず見逃していたり(トロントの殺人鬼)という汚点も隠さず紹介。
今さら蒸し返されたくない過去の過ちをカメラの前で語る刑事たち。(私ならできない)
日本の警察なら絶対ありえない。
あと、昔の事件を担当した刑事たちはかなり歳を取っていて、みんな恰幅がめちゃくちゃ良くなってる。(太ったとも言う。笑)
いかにもアメリカにいそうなビール腹のおじいいちゃんたちの武勇伝や、被害者への涙に何度もジンときちゃったよ…。
またDNA鑑定の精度が上がったため、犯人逮捕に至ったり身元がわかった事件がいくつかあり、捜査技術の発展に改めて感謝したくなりました。
1話約40分とかなりコンパクトな作りながらも、内容はかなり濃いので見応えあり。
1シーズン1日あれば観られるので、ドラマや映画にちょっと飽きたら観てみては。
BTKやトロントの殺人鬼のようなサイコパスが登場する海外ドラマはこちら↓
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